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2017年度6月号
『大隅良典氏(2016年ノーベル医学生理学賞受賞者)への手紙』
大隅良典様
初めて、お便りを差し上げます失礼をお許しください。
人間の基礎科学を模索し、60数年になります。胎乳幼児と母親の関係を観察実践して50年になり苦悩の連続です。
昨年ノーベル賞受賞の際、「科学に有益だけを求めるのではなく、社会は基礎科学を一つの文化と考えてほしい」と強調された言葉に励まされ、また勇気を与えられたひとりです。感謝しております。
私自身、15歳から人間とは何か、生きる意味を求め続けて現在78歳になります。乳幼児と共に歩んでいる若い母親父親に寄り添い50年になろうとしています。その経験から、人間の基礎科学が若い家族、特に胎乳幼児や子育てしている家族に反映されていないことに深い悲しみを感じてきました。
医学や医学技術、薬学、IT産業研究などの発展は目を見張ることが多くあり羨ましい限りです。しかし、人間の基礎科学の実践研究は、遅く悲しみを感じながら人間の基礎探求と実践を試み続けています。特に、胎児期、乳幼児期と母親の関係の具体的な実践は、悲惨と言えます。我が子にどう接したらいいのか苦悩している母親が年々増えてきております。
日本学術会議が「人間の科学特別委員会」を1989年第107回総会で設立しましたが自然消滅しました。(資料として同封させていただいた中に付箋をしています)。人間の基礎科学の世界は、成立できない社会になっています。どうにかしたいと言う思いが強くなっています。
私自身、30歳でプロテスタントキリスト教会牧師と付属幼稚園園長に就任して知ったことは、母子の愛着の基礎が失われつつある社会になってきていることでした。人間生活の基礎となる男女の信頼の喜び、その信頼から生まれた命が両親から信頼される喜び、その二つの喜びが希薄になってきている人々が増えていることに気付かされたのです。もっと深刻な状況は、高学歴を問わず、子を産んで母親になった女性が、我が子と関わる喜びより、苦痛を多く感じてしまう例が増えていることです。様々な要因はあるのですが、基礎的な要因は、母親になった女性が自分自身、乳幼児期に愛着が希薄であったことが問題と思います。その母親と子の良好な人間関係(当然夫も含む)を創造する家族の幼稚園を実践してきました。お互いに補い合って生きる生活環境を、参加する人みんなで苦悩しつつ楽しみながら創造しています。
 
40歳で牧師と宗教から離れて、森の中の小さな盆地に家族がいつでも参加できる生活環境を創り日々楽しく過ごしています。一日平均、在園児60人前後、母親50人前後、乳児20人前後、父親3人前後、祖父母2人前後、卒園家族30人前後、見学者は、全国や世界から年間200人以上参加して生活しています。
 
現在まで、多くの分野の方々に協力をいただき、総合的で基礎的な人間探求を実践してきましたが、まだまだ、見えないことや、聴こえないことが多く苦慮しています。人間の神秘と不思議を発見できる喜びを日々体験していますが、力不足を多く感じている日々でもあります。
基礎的生活を基礎科学的に分析しつつ、個々が人間の幸せの核を身に付けられる生活を確立する様々な法則を探したいのです。
ぜひ、お力をお貸し願いたく、お忙しい方であることを承知の上で、勇気を持ってお便りしました。
 
2017年5月28日                        学校法人創造の森学園
                               札幌トモエ幼稚園
​                               理事長・園長 木村 仁 印
 
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